中国語教育学会、高等学校中国語教育研究会<年に一回の合同会議>に参加して
〜中国語教育の課題と改善への方向性とは〜

                           

平成19年5月16日
セリングビジョン株式会社
岡部 秀也

 中国語の合同記念大会という年一回の大会に参加して、各有識者からの総括発表の総会ととともに、翌日には具体的なテーマに沿って中国語研究者のワークショップにも出席いたしました。多くの優秀な中国語教育の教授陣や高校の教諭の方々と懇親を深めることができ、最新の教育現場の課題や改善点などを知り、有意義でした。セリングビジョンも中国語教育学会(古川裕 会長<大阪外国語大学教授>)の会員として、中国語教育に対する志と情熱をもって、普及・啓蒙活動を積極的に展開していきたいと考えております。
 参加しての個人的印象として「中国語教育の課題と改善への方向性」をまとめてみました。
 教育専門家の方々からすると、やや的外れの部分もあるかも知れませんが、どうぞご容赦いただき、中国語教育の発展のためにご参考にしていただければ幸いであります。

1 日時、場所
2007年5月12日(土)、13日(日)
関西大学千里山キャンパス
2 後援 文部科学省、駐日中国大使館教育処ほか。
協力 各大学孔子学院、韓国中国語教育学会ほか
助成 中国国家漢弁(国家漢語国際普及指導グループ弁公室)ほか
3 中国語教育の課題と改善への方向性についての個人的印象
以下、@〜Gのタイトルが課題で、以下は問題の中身と改善の方向性を付記しております。
@ 日本で、中国語の学習時間が不足
・ 現在、中国では、初級の中国語の学習には、800時間をかけている一方、日本では200時間と少ない。初級といっても、中国と日本での学習努力と目標について両国の差が大きい。
・ 学習時間を多くとるためには、自学としてのパソコン/DVD/ビデオ等を使ってのEラーニング、中国現地へ留学制度の充実や、自習用に楽しく学ぶコンテンツ(例:カラオケ、漫画など)も増やしていく必要がある。また、大学でも中国語が英語に次いで人気が高まっており、中国語のコースを増やし強化していくことも重要である。
A レベルごとのシリーズ中国語テキストが少ない
・ 現在、書店などで販売されている中国語の教科書、参考書は、初級のものが多く、中級・上級編が極めて少ない。このため、学習者のレベルに応じた教育ができず、初心者も上級者も発音の「馬」からはじまるという無駄な授業になりがちである。
・ 語彙、文法などのレベルを区分する形で、また会話力(スピーチ、ヒアリング)の水準に応じての、テキストを企画出版していくことが求められる。
B 中国語の検定試験がHSKや民間の試験しかなく、受験者数も多くない
・ 「読み、書き」とともに双方向コミュニケーションを行う「聞く、話す」がますます重視されているが、これらを総合的に教える目標や尺度があいまいとなっている。このため教える教授・教諭ともどこまでのレベルを教えたらいいのか現場では混乱している。
・ またHSKが有名であるが、ビジネス向けではなく、しかも難しい試験であり、なかなか受験者が増えず、日本で定着しない。
・ 既存の中国語試験に合格しても、それが進学や就職に有利になるような仕組みになっておらず、受験生の学習する大きなインセンティブにはなっていない。
・ BCTのような新たなビジネス中国語の検定が、日本に導入され、企業や大学も有力資格として認定されれば、学習の目標にもなりありがたいとの意見がよく聞かれた。
C 大学教授・高校教諭ともに、先生により教え方にばらつきが激しい
・ 欧州でのCFERや米国でのNational Standardsのような中国語教育の標準的なものさし(到達度評価制度)が日本には欠如している。(大阪外大で個別に取り組み始めたばかり) 日本は、ものさしのない、個別の大学や先生の教育に一任する「蛸壺(たこつぼ)型」授業に陥りやすいとの声も聞かれた。
・ 大学内でも先生同士のコミュニケーションが不足しており、互いの授業の中身を情報共有していない場面が散見され、大学側も個別の教授等に授業の中身を任せすぎの面がある。このため同じような授業を同一学生が受けることにもなりがち。
・ 大学内で教授陣の教育コンテンツを交換したり、事務局が、全体の指導方法を策定するなど、もっと学生側に立ってのコミットが必要であろう。
D テレビ会議、携帯電話、PodcastなどIT駆使の自立型教育が遅れ気味
・ ITを活用した遠隔教育には、ライブの対面式のパソコン会議レッスン、自習用のCD/DVD/カセット利用などがある。ユビキタス時代には、教室型よりはPC・テレビ会議でのライブレッスンが会話練習もでき便利で効果的であるが、ネットワークサーバーの安定性や画質の確保がなかなか難しく、受講者宅のネットワーク環境やカメラ等(システム整備)にもコストがかかり簡単には進まないのが現状である。
・ ライブレッスンは課題が残るが、VODのようなコンテンツのダウンロードによるテキストの入手(PDF化)やストリーミングによるレッスンも有効であろう。さらに一層、CDやDVDの活用も自習型の能力啓発に効果があろう。
・ 今後は、携帯電話やPodcastによるいつでもどこでも気軽な勉強のスタイルも試していくといいのではなかろうか。若い方々は携帯とPodcastを使っての授業に抵抗感が少なく、むしろ喜んで活用するので、学習効果が高まるものと考えられる。いずれにしても、教育現場でのIT化は相当進んでいくだろう。
・ ただし、中国語教育のIT化による効果を過大視するのではなく、あくまで受講者への動機付けや授業のサポートと考えたほうがいいだろう。
E 需要側の中国語の学習人気が高まる一方、供給側の教授・先生が質量ともに不足
・ 昔は、高校で中国語を教える学校は数十校であったが今は500〜600校に達し、各大学の語学授業で中国語クラスは必須の状況にある。
・ しかし、中国語を流暢に話し、聞き、「普通語」で会話のできる先生は少ない。
・ 中国語の翻訳や通訳のビジネス需要も高まっているため、優秀な先生(中国人で大学・日本語学科卒業者や日本人で北京大等の出身者)は、いくつかの大学を掛け持ちして教えたり、通訳・翻訳などのビジネスサポートもしている。このため生徒にじっくりと時間をかけて本場の中国語を教える時間が少ない。
・ 日本の大学生で本格的な中国語を学ぶには、中国の大学で私費留学するか、優秀な中国人ネイティブに個人的につきっきりで学ぶしかない。今後は、中国の著名大学への留学制度の充実や日本での各大学や孔子学院による教授陣の増加が求められよう。
F 日本には、英語以外の外国語について政府等からの具体的な指導要綱がない
・ 英語は世界共通言語であり、文部科学省からは細かい教育指導の要綱が定められているが、二番目の中国語やその他の外国語については、具体的な学習指導要綱が定められていない。したがって、教育の方法や教材コンテンツ、学習レベルは実質的に各学校によってバラバラになりがちである。
・ 中国語の教育について、英語並みに詳細な指導要領は必要ないかもしれないが、少なくとも中国語の日本人のニーズが高まって、ビジネスを中心に不可欠な言語になりつつあり基本的な教育方針・具体的な教育方法・目標などは明示していくべきであろう。
・ 並行して今後は、高校、大学や企業内教育の関係者は、学習者のステップバイステップの中国語教育のレベルを上げていくための方針や目標を連携して一層検討していくべきであろう。その意味で、今回のような合同会議を継続して開催し、互いに学ぶことは、きわめて意義深いものであろう。中国語教育学会の学力基準プロジェクト委員会がまとめた「中国語初級段階、学習指導ガイドライン」は今後の大きな目安になるだろう。
G 日本の日常生活、習慣をテーマにしての視覚的な実用的授業が少ない
・ 日本で学習で使う教材は、初級レベルのものが多く、中身も発音練習から入り、文法・読みに至り、一般的な話題を中心に扱っているのではないだろうか。高校生や大学生、あるいは社会人によっては、関心あるテーマは異なるため、そのクラスに応じた即役立つテーマや内容を選択して、教えることが望ましい。
・ その意味では、米国の大学での中国語授業は、視覚的でわかりやすく工夫しているという。たとえば先生が授業で使う材料(たとえば、食事がテーマなら、レストランや料理メニューの写真や飲み物ボトルを用意)や教材(模造紙等で描く漫画や絵、地図等)は、自分で実物を用意して、楽しくレッスンに励むように創意工夫しており、授業も盛り上がり、生徒の学習効果も高いとの報告もあった。クイズや小テストも頻繁で、自宅と先生宅をつなぐインターネットも活用している。
・ 共通の教科書を授業で使うとしても、画一的な授業ではなく、先生方の創意工夫により、生徒には中国語を楽しんで効率的かつ実用的に学ばせることが求められている。時には生徒自らが自由に発表する「プレゼンテーション型」の授業を展開するなど、一層知恵を絞っていくことも求められているのではないだろうか。

(会場となった新緑が眩い関西大学千里山キャンパス)

(盛況の合同総会がスタート)

(ワークショップでの講師説明とQ&A)

以 上