米国最大のRCM/CMMSユーザー会議報告
〜原子力等の安全効率的なプラント保修に向け当社3年連続参加〜

                           

平成20年3月31日
セリングビジョン株式会社 岡部 秀也


 当社は、米国で毎年一度開催される大型プラントのメンテナンス(保守、保全)の合理的、効率的な方法、ノウハウについて世界のユーザーが集まり議論するRCM/CMMSラスベガス会議に参画してきました。日本からは三年前に当社が初めて参画して以降、昨年は日本メンテナンス協会殿、今年は原子燃料サイクルの会社も参加しました。世界各国から、650名の参加で盛況でした。
 いま、巨大技術を反映した大型プラントが世界各国で数多く建設され、運転開始をするなかで、ますます信頼度と効率性を重視しつつ、IT(情報技術)を駆使したメンテナンスが重視されており、最新の経験ノウハウに基づく知見を得られたことは大変有意義でした。
 * RCM: Reliability Centered Management
 * CMMS: Computer Based Maintenance System


<RCM/EAM(CMMS)2008フォーラム概要>

2008年3月17〜20日にラスベガスOrleans Hotelで開催。
主催者 :
Reliabilityweb.Com, Maintenance−Tips , Uptime Magazine の3社
開催目的:
RCM、CMMSに焦点を置き、発電所などのプラント管理の専門家が、セッションやワークショップでの発表や、互いの交流の機会を通じて、最新情報を得て、企業への導入検討に役立てること。
フォーラムの特徴:
プラントの設備・在庫、保守計画やスケジューリングと保守作業管理を含むRCMとCMMSに特化した米国で唯一の中立的なフォーラムとして有名。非商業ベースの国際会議セミナーを目指しており、大規模プラントなどを有する産業界や保守に関係する専門家、コンサルタントとともに、保守保全の最新の課題を学び、保守管理のための新たなソリューションのあり方について情報交換する絶好の機会と考えられている。
具体的に得られた情報(RCM/CMMSに焦点):
  • 世界クラスの資産管理とRCM保全プログラムを構築する方法
  • RCM保全プログラムの新しいテクニックと考え方
  • 保全に関する購買や在庫管理を含むコスト削減方法
  • CMMSのソフトウエアの導入テクニックと好事例
  • 優れたCMMS/EAMの評価と選択プロセスのあり方
  • 保全の情報管理の改善
  • 資材調達請求における適正な価格設定
  • 他の保全以外の改善箇所へのCMMSデータの活用方法
  • 既存のCMMS/EAMの活用効率を上げる方策
  • 急速に進むCMMS/EAMの導入にあたり必要なWebベースでのソフトウエアのオプションとは何か
  • プラント保全におけるKPI(Key Performance Indicators)の開発
  • RCM、CMMSの管理方法とは何か
CMMS導入のケーススタディ:
MRO(MAXIMO)、SAP(PM)、Oracle(eAM)。
RCMシステムソフト :
リスク・収益・コスト分析ソフトなど。
保守に役立つための実務者層 :
保修担当取締役、保修マネージャー、安全保証エンジニア、保守監督者、保守技術者。他に、RCM(Reliability Centered Maintenance)プログラムを計画、導入あるいは改善に関するスタッフ。
本会議での参加者等の特徴
  • 北米諸国ばかりか、デンマーク等の欧州、韓国等のアジア、ロシア、サウジアラビア、カタール、南アフリカ等よりエネルギー関係を含めプラント保修の責任者が幅広く参加。
  • 電力関係では米国電力(SCE、オクラホマ電力等)、GE、WH等や、カナダの電力会社、韓国電力、原子力会社などが参画。
  • 業種としては、空軍、航空業界、電力・原子力業界、鉄鋼、自動車、食品、水道局など。


<セリングビジョンとして参画しての所見>

世界の有識者と交流しプラント保守ソリューションのノウハウを得た
本会議は、ベンダーなどがPR色を出したり、コンサルタント会社がセールスの話をしてはならない、あくまで公平・中立のユーザーのための発表、議論の会議であり、米国を中心に世界各国のプラント保全責任者や経営者などが一同に会し、本音ベースでの意見交換をするため、プラントユーザーの立場からは有意義な会議でした。また、参加者の中で、米国などの発電所保全の権威の方々や規制当局経験者やRCM,CMMSの専門家や学会やプラント関係者も参加しており、今回で三回目の参加により旧交や信頼関係を築くことができました。プラント保全の課題と解決策を学びためのテーマ別の討論にも積極的に参加しました。航空、原子力、鉄鋼、化学、自動車をはじめとするプラント保全の有識者や権威の方々と旧交を深めつつ新たなリーダーと意見交換ができたことも収穫でした。
日本の発電所などの保守改善、システム導入の教訓も知った
今回の参画により、日本の保安院が進める原子力発電所等の保守における新検査制度への準備やRCM志向の業務プロセスの改善、プラント現場でのスタッフ教育、CMMS導入改善に向けての課題や問題点も議論したり、多くのケーススタディや教訓も得ることができました。
RCM/CMMS会議が注目される背景
こうしたプラント保全に関するフォーラムやセッションは、米国などで広く開催するようになってきていますが、本ユーザー会議は欧米やアジア諸国などのユーザーにとって最も重要な会議として注目されております。会議に参加して、その注目される背景をつかみました。
  1. 米国では、RCMの精神を自社プラントに生かして、安全で安定性ある稼働による効率向上をはかり、ROI(投資収益性)を向上させるかがますます大きな課題となっている。そのためにCMMSが不可欠であるが、実際にCMMSを導入したプラント保修のユーザー企業の内、60%以上が当初期待していた導入効果が見込めなかったと答えている。その半面で、設備産業の経営トップは、ますます資産の効率利用による収益性を高め、取締役会、株主総会で、その業績と今後の戦略を発表する機会が増えている。設備保全は、コストでなく、収益を生み出す源泉という考え方が主流になりつつある。
  2. ユーザーとしては、そのCMMS導入の失敗がなぜ生じたのか、どうすればRCMプログラムの成果とCMMSを経営戦略的に活用できるのか、いかに保修プロセスのシステム化(自動化)を進めるべきか、効率的・生産的な保修作業にするためにRCM、CMMS導入手順や技術改善をいかに図るべきか、などの諸課題を抱えている。
  3. こうした問題意識から、導入するユーザー企業として、RCMの実事例を把握し、自社でいかにRCMを導入検討していくか、CMMSソフトをいかに比較評価し、失敗しないようにCMMSの導入までのコンサルを外部委託するニーズが膨らんでいる。関係者が一同に会し、事例を研究し、最新情報を交換し合うことも重視される。
日本のプラント保守のあり方への知見
  • 米国主流の合理的なRCM/CMMSが世界の大プラントでデファクトスタンダード化するなかで、日本の伝統的なプラント保守のあり方が問われている。確かに、日本は、80年代にはプラントの高稼働で安全運転技術が注目を集めていたが、いまや、そうした品質管理の日本的なやり方を真似するよりも、むしろコンピューターを使ったシステム活用に重点を置くようになっている。
  • ただし、米国などの導入企業でのケースをみると、RCM/CMMSの導入が必要だからといって、トップダウンで拙速な意思決定をすると禍根を残すだろう。なぜならプラント現場の業務プロセスを変革することは大きな「痛み」を伴い、さらに長年築いた職人的なノウハウを否定することにもなりモラルダウンになる悪影響が指摘され、しかも、RCM/CMMSの導入の仕方を誤ると、簡単には後に引き返すことができなくなるためである。やはり、現場サイドが、よく納得して業務実態を把握して、その業務プロセスを自主的に改善していこうという、自らがやる気を起こすようにリーダー、ファシリテーター、プランナーを選びPDCAを回す組織的な取り組みやサポート体制(スケジュール管理、教育、データ処理・管理、アクション改善)が求められる。また、RCM/CMMSに協力したり、建設的意見をいうスタッフを表彰したり、RCMキャンペーンを社内一斉に実施するなどの一体的な取り組み、あるいは給与面でのインセンティブを与える仕組みも必要との指摘も受けた。
  • RCMの権威ある教授によれば、「日本よりも進んでいる米国、欧州などのRCM/CMMSの導入に向けての課題を研究し活かすために何をすべきか、その問題をいかに解決していくかを学ぶことが近道と思われる。欧米の先進事例を今回の国際会議などの場で学びつつも、そうした能力・経験のある専門家を日本に招聘して、プラント保守現場で実地研修を行ってもらうといいだろう」。
  • 教育トレーニングは1年以上かけて、研修マニュアルをつくり、そして教育実施する時間もかかることを理解しなければならないだろう。欧米や豪州、韓国でもとくにプラント現場へのRCM/CMMSの理論をみっちりと勉強して職場のカルチャーを切り替えるとともに、保守の日常的なデータを見て、データベースにインプットするまで具体的なトレーニングを実施しており、日本でも丁寧に取り組む必要があろう。
  • RCM/CMMSを導入した企業においてもパッケージソフトを変更することも数年で行われるようになっている。ソフトうんぬんよりも、自社のプラントRCMの保守業務プロセスを改善し、自社でのRCM的なカルチャーをつくり、効率的安全なプラントの保守を志向している。
  • CMMSのデータベース化には、どんな項目をどんな基準で誰が入力して、誰がそのデータをチェックし、そのデータを誰が活用していくのか、それぞれの段階での責任者と役割分担を決めていかないと、いざ導入しても、混乱してしまうこともわかった。導入にあたり、初めから、そうした細部にわたる、人と業務と役割をよく議論して詰めておくことが求められよう。
  • 欧州から参加のRCMのコンサル会社によれば、EUの化学産業の設備についてトラブルによる操業停止の原因は、20%がプラント保全の不備、30%がヒューマンエラー、50%がプラントや機器のデザイン・仕様の問題とのことである。対策としては、順に状態監視やセンサー導入も含むRCM/CMMS導入、RCA(根本原因調査)、購買時のチェック態勢強化をしているとのことで、RCAによるヒューマンエラー対策(とくにCAP・・・不適合管理)は一層重要視される見込みである。
  • CMMSのプログラムについては現場の運転や保全スタッフばかりが理解して作業をするのではなく、プラントエンジニア、ファイナンス、資材、ほかのシステムベンダーや関係会社などにもよく、理解していただき、現場全体で納得するための教育を行うことの必要性も有識者から指摘を受けた。CMMSベンダーからの資格者による公式会議や教育、CMMSのマニュアルの勉強会、各種セミナー、WEBセミナー、オンライン教育訓練など、あらゆる機会に教育をすることが、RCM/CMMS導入成功のカギであるという印象を受けた。

以 上



(会場のOrleans Hotel)

(主催者のオハンロン会長の歓迎挨拶)

 (朝8時から夕方まで丸一日、議論したRCM/CMMS導入教育コースの仲間たち)

(GEグループ会社のRCM/CMMSの教育会社で意見交換。自社の教育ソフトは主だったCMMSソフトとのインターフェイスが可能という)

(研修会社ROJECTECH社)

(コンサル会社IVARA社役員)

(マック・スミス博士の講演。RCMの大御所)

(デュポン社の経営からみたRCM、CMMS導入の苦労と成功を語る)

(展示ブースと意見交換の会場)

(RCMをハーバード大などの経営コースで教えるALLIED RELIABILITY会長のセミナー)

(ラスベガスは毎年8%程度の人口増加率で電力の需要も急増中。「不夜城」のホテル建設ラッシュである。電力プラントや砂漠地での水供給の効率運転・保全が喫緊の課題<TVAや水道当局など>といわれていた。)